カスハラにも笑顔強いられ 広がる「感情労働」 燃え尽き症候群にも

Re:Ron特集「時代のことば」 感情労働
お客さんからどのようなことを言われても、笑顔で対応する店員さん――。サービス業が広がるにつれて、会社が設けたルールに基づいて自身の感情を抑え込みながら働く「感情労働」が注目されるようになりました。脳科学者の恩蔵絢子さんは、現代では、働く場はもちろん、日常生活でも同様の感情の働かせ方が生じているのではないかと問題提起しています。感情労働との向き合い方について聞きました。
脳科学者 恩蔵絢子さんインタビュー
話題のキーワードや新たな価値観、違和感の言語化……時代を象徴する「ことば」を、背景にある社会とともに考えます。
- Re:Ron特集「時代のことば」これまでのキーワード
記事のポイント
・見過ごされてきた労働の価値
・感情を書き換える「深層演技」
・やりがいも本当の気持ちも見失い
・カスタマーハラスメントが生じるわけ
・研究のきっかけは、認知症の母の介護経験
・日常生活の中でおこる感情労働
・AIにできること 人間が得意なこと
・クリエーティブな感情労働
■見過ごされてきた労働の価値
――接客業やケアの現場などで働く人々は「感情労働」を強いられていると言われています。どのようなものなのでしょうか。
感情労働という言葉を最初に世に出したのは、米国の社会学者アーリー・ラッセル・ホックシールドで、1983年に著した「管理される心――感情が商品になるとき」の中で提唱しました。それまで、肉体労働や知的労働という言葉はありましたが、人は感情も使って働いていたはずなのに、そこには名称がありませんでした。それを「感情労働」として定義したのです。
会社が設定したルールに従い、自分が実際に何を思っていても、そのルールに合った感情をつくり、お客さんに気持ちよく過ごしてもらうというのが特徴です。感情は目に見えにくいので、労働として気づかれるのが遅れました。しかし、そこにも非常に大変な労働があることが示されたのです。
ホックシールドは典型例として航空会社の客室乗務員を調査しました。客室乗務員は、お客さんに「またこの会社を利用したい」と思ってもらうため、自分が本当に感じていることをそのまま出してはいけないという会社側から決められたルールに基づいて行動し、理不尽なことを言われても笑顔で接するよう訓練されていました。
■感情を書き換える「深層演技」
――自分の感情を隠してしまうということでしょうか。
ホックシールドは感情労働を「表層演技」と「深層演技」に分けています。表層演技というのは、その場でマスクを着けるようなものです。本当は怒っているのに、怒りを抑え、顔だけは笑顔をつくる。自分の感情を隠したり、抑えたりして、表面で演技をするのです。
もう一つが「深層演技」です。こちらは、感じていること自体を書き換えます。本当は「嫌だ」と思っていても、「この人にはこういう事情があるのだ」と考え、その人への評価や理解を変えていく。すると、もともとの嫌な感情そのものが変わり、笑顔になっていく。心の深いところから自身の感情を書き換えるのです。
接客業などの方々は、トレーニングや経験を通じて、相手がなぜそういう行動をするのか、どういう事情があるのかを理解できるようになっていきます。最終的には、心から相手に共感している状態になることが目指されます。
――けれども、そうして感情を管理し続けると心は疲れていきませんか。
会社はルールを定めて社員の…
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