「やっとはじめて」感じた戦争の到来 小説家の日記に宿る高揚と葛藤

2・26事件や日中戦争を経て太平洋戦争の開戦へ、そして敗戦へと転落していく時代の空気を、文壇や論壇の世界はどのように捉えたのか――。その一端をリアルに紹介するのが、日本近代文学館(東京都目黒区)で13日から始まった「滅亡を体験する 戦渦と文学」展だ。
例えば、作家・伊藤整(1905~69)の日記だ。
「タバコ屋にてタバコを買ふ。魚屋や八百屋の行列の女たち、いつものとほりなり。郵便局へ抜ける道の空地で防空壕(ごう)を女たちが作つてゐる。それでやつとはじめて戦争来の感がする」――
太平洋戦争が始まった1941(昭和16)年12月8日、ラジオで開戦を知った伊藤が東京の町を歩き記した。細やかで整った筆遣い。ページ上には新聞記事が丁寧に折りたたまれ、貼り込まれている。
日記の中で伊藤はこうも述べる。「我々は白人の第一級者と戦ふ外、世界一流人の自覚に立てない宿命を持つてゐる/はじめて日本と日本人の姿の一つ一つの意味が現実感と限ないいとほしさで自分にわかつて来た」。ページの隅に記された小さな文字からは、「開戦を歓迎した」というだけでは語れない、葛藤や高揚、緊迫感が入り交じった複雑な心境がにじみ出る。伊藤が戦時下社会の異様な空気を記録した日記は「太平洋戦争日記」として刊行されているが、その実物を目にする機会は珍しい。
展示にかかわった大原祐治・…
The post 「やっとはじめて」感じた戦争の到来 小説家の日記に宿る高揚と葛藤 appeared first on Japan Today.