男女「2馬力」の社会構造に追いつく制度を 実証経済学が示す突破口

アジア経済研究所主任研究員の牧野百恵さん=千葉市美浜区、大内悟史撮影  6月に閉会した通常国会。衆院では28年ぶりとなる選択的夫婦別姓導入をめぐる審議が注目されるも、採決は見送られました。参院選でも男女間格差の解消は争点 [...] The post 男女「2馬力」の社会構造に追いつく制度を 実証経済学が示す突破口 appeared first on Japan Today.

男女「2馬力」の社会構造に追いつく制度を 実証経済学が示す突破口
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アジア経済研究所主任研究員の牧野百恵さん=千葉市美浜区、大内悟史撮影

 6月に閉会した通常国会。衆院では28年ぶりとなる選択的夫婦別姓導入をめぐる審議が注目されるも、採決は見送られました。参院選でも男女間格差の解消は争点の一つ。著書『ジェンダー格差 実証経済学は何を語るか』(中公新書)があるアジア経済研究所主任研究員の牧野百恵さんは、主にインドなど南アジアの男女間格差を調査してきました。日本社会に根強い男女不平等は、市場経済のメカニズムのもとでどう解消すればいいのか。突破口について聞きました。

「ジェンダー格差」著者 牧野百恵さんインタビュー

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 ――日本社会は「岩盤」のように男女間格差の解消を拒んでいるように見えます。何が問題なのでしょうか。

 2023年に『ジェンダー格差』を出版して以降、企業の経営者や人事担当者などから男女間格差を解消する処方箋(せん)についての問い合わせがくるようになりました。一朝一夕にはいかないが、経済学の実証研究によれば思い込み・社会規範の変革が必要である、と繰り返し伝えています。

 思い込みや社会規範が男女不平等にもたらす影響力は、多くの人が思うより大きいことが、最近の実証研究で明らかになってきています。「女性はこうあるべきで、男性はこうあるべきだ」という思い込みが根強い。しかも、何かを固く信じているがゆえの思想やイデオロギーというよりも、単なる習慣、惰性に近いということが見えてきています。

 ――男性の育休取得率などの成果指標も注目されるようになり、少しずつ前進しているように思いますが……。

 男性の育休取得率アップは、取り組まないよりは取り組んだ方がいい。その上で、果たして男性の育休取得率は男女間の格差解消を示す適切な指標なのか、という点を考えなければならないでしょう。

 例えば、男性向けの制度を拡充すれば、男女間の賃金格差やキャリア格差がむしろ広がる可能性さえあります。分かりやすい数字を目標に掲げて制度を整えることも大事ですが、目標は数値の上昇ではなく、女性だけが担ってきた負担の軽減、ひいては女性の所得の向上やキャリアアップのはずです。制度を整えたところで、いったいだれが家庭内で家事や育児をするのか、ここでも性別役割分担にまつわる思い込みや社会規範が大きく影響しています。男女間の家事や育児の負担が女性偏重のまま変わらなければ、育休中の男性が育児をせずに自身のキャリアアップに専念し、かえって女性よりも賃金やキャリアをアップさせる可能性があり、実際にそのことを示した実証研究もあります。

■格差示す指標をどう見るか

 ――日本が下位に低迷するジェンダーギャップ指数などの指標はどう見れば。

 世界経済フォーラムが6月に発表した最新の「ジェンダーギャップ指数」で見ると、日本は148カ国中118位。経済協力開発機構(OECD)加盟の38カ国に限れば日本はトルコに次いで下から2番目でした。

 健康・教育分野は男女間の格差が小さいのに、政治・経済分野の大きな格差が足を引っ張っています。この指数も完璧な指標ではありませんが、先進国に限ってみれば男女の家事労働時間の差との強い相関がみられるなど、一定の目安にはなります。

 国連開発計画(UNDP)が発表している別の指標「ジェンダー不平等指数」で見ると、日本は172カ国中22位でした。ただこの指標は、10代の妊娠・出産率や妊産婦の死亡率といった男性の値がない数値の影響が大きく出てしまうので、男女の差を表す指標としては不適切と言わざるを得ません。平和で安定した日本と違い、戦争が続いて医療体制に不備がある貧しい国では男女の差にかかわりなく必ずランキングが低くなります。この指標を先進国だけで比べても、10代の出産率だけが理由で、米国、イギリス、ニュージーランドより日本のランキングが高くなっており、多くの人が違和感を覚えるでしょう。先進国同士を比べて、多くの人がランキングに納得感をもつ数値は男女の家事労働時間の差だと思いますが、日本や韓国は男性の家事労働時間が突出して短い点が目立ちます。

 内閣府男女共同参画局が「性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)」を調査し、発表しています。子どもが病気になったら共働きでも女性が看病すべきだ、乳幼児は母親がケアしなければならない、なんといってもお母さんのケアが子どもにとっては大事だ――といった思い込みがあります。まずは自分には男女間の役割について思い込みがある、と気づくことが大事です。その点、新聞などメディアの役割は大きいでしょう。

 ――意識の問題ならすぐにでも変えることができそうだと思う一方で、人の意識はなかなか変わらないとも感じます。世代交代を待つには何十年もかかります。いま少しでも変えるには?

 人は家庭や学校などで一人前のおとなへと育っていく中で、小さい頃から「男は男、女は女」と刷り込まれています。

 女性やマイノリティーの社会参加を促す「クオータ制」、例えば女子学生の優遇枠を設ける理工系の大学が増えていますが、こうした制度は一時的に必要でしょう。意識の変化を促すために制度を変えるのも効果的だからです。家事や介護は女性がするものだ。育児は母親がするものだ――。こうした根強い意識に対し、保育園が充実して通うのが当たり前になり、介護保険の制度が浸透するなどして、女性は家庭を守るものだという規範が少しずつ変わってきました。

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女性の心の健康に影響を与えるジェンダーギャップについて、日英合同調査に参加した若者たちが書き出し、議論した=東京都世田谷区

■ロールモデルは「次世代へのメッセージ」

 ――女性の社会進出を進めるには、目標や模範となる「ロールモデル」の存在も必要だと指摘していますね。

 制度の変化と同じくらい重要なのは、社会で活躍するロールモデル、お手本の存在です。

 先行世代のロールモデルは「次世代へのメッセージ」です。母親が働いている。学校で教わった女性教師が責任ある役職についている。大学や企業で出会った女性の先輩や上司にあこがれる。若い女性が自分にもできるかもしれない、自分も挑戦しようと思うきっかけとして、身近なロールモデルの存在がプラスの影響を与えるという実証研究があります。

 女性の社会進出には、能力や…

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