「名人にならなきゃいけない」趙治勲、苦しみ抜いてたどり着く境地
8月26日開幕の囲碁名人戦七番勝負(朝日新聞社主催)は、節目の50期を迎える。その道の頂点を極めた歴代名人は13人。最多の9期就位の趙治勲名誉名人(69)に囲碁の劇的な進化とそれに伴う課題、今期の決戦への期待を聞いた。 [...] The post 「名人にならなきゃいけない」趙治勲、苦しみ抜いてたどり着く境地 appeared first on Japan Today.

8月26日開幕の囲碁名人戦七番勝負(朝日新聞社主催)は、節目の50期を迎える。その道の頂点を極めた歴代名人は13人。最多の9期就位の趙治勲名誉名人(69)に囲碁の劇的な進化とそれに伴う課題、今期の決戦への期待を聞いた。
節目の囲碁名人戦 AI超えて伝える芸
名人戦を朝日新聞社が主催して、もう半世紀ですか。棋士はみんな興奮してね。すごく賞金が上がってね。あれからAI(人工知能)の登場で、碁は劇的に変わりましたね。
徳川家康が碁を推奨して、棋士に禄を与えて、そこから碁というものは高尚で品があるものだ、という流れがずっとあったと思うの。碁は勝負を争うゲームなんだけども、どこか芸術性みたいなものがあった。アマチュアの人も碁を趣味にするってことがなんか自慢できるような感じのね。
そういう芸術性がね、AIの出現によってわからなくなってきちゃった。というのも、AIがあまりにも強すぎちゃってね。
今度の名人戦は一力(一力遼名人)と虎(芝野虎丸挑戦者)が打つわけだけども、それぞれの個性、芸風はあるんだけども、そこにどうしてもAIが重なってしまう。
彼らはAIでものすごく勉強して、ものすごく影響を受けてるから。昔はすてきな先生の弟子だったらちょっと自慢できるみたいなところがあったけども、今は全員と言ってもいいぐらいAIが師匠です。
今までは碁の神様がいなかったから、誰が強いかわからなかった。もちろん勝つ人が強いんだけど、でも勝ってもちょっと認められない芸もあるわけです。負けてもこの人の芸は認めるっていうのもあるわけです。
碁の10の要素のうち、勝負は1か2かもしれない。そのほかに精神性とか芸術性とか、そういうものが重なってあったわけですよ。でもAIの出現で、そういうものが崩れてきちゃった。
僕の時代はAIなんかなかったから、強くなるには一朝一夕とはいかなかった。子どもの時から修業して、積み重ねてきたものがある。そうすると、自分の芸風っていうのが出てくるんです。ここはこう打ちたいとか、ここには死んでも打てないとか、心の葛藤があったわけです。
そんな馬鹿なこと言ってる場合じゃないんだよ、今は。AIがここだと答えを出しちゃうから。
一力や虎は天才です。僕なんか絶対に勝てない。ゴルフだったら松山英樹にだって、タイガー・ウッズにだってね、100回やれば1回勝つかもしれない。1回ホールインワンできるかもしれない。下手くそでも勝つ。
でも一力や虎には100回打ったって勝てない。みんなAIから教わっていても、彼らはAIをうのみにしてるんじゃなくて、AIをちゃんと自分の中で消化してるんですね。僕なんかが勉強してきたものと全然違うんですよ。
ただ、碁の本質的なもの、家康が感じ取ったものは今も何ら変わらないはずです。AIがこういう碁を打てって言ったって、俺はここに打ちたいんだと表現するのは、めちゃくちゃ大変なことなんです。とくに今はね。一力や虎からは、それが伝わってくる。それはすごいことなんです。
今度の名人戦でふたりに望むこと? 全部出し切る。それを目指してほしいね。碁打ちの本望だから。最高の碁を打って勝つ。たとえ負けるにしても最善を尽くす。
その碁の中身を本当にわかってくれる人は世界中に数人かもしれない。でも伝わってくる空気感みたいなものがある。
名人戦は2日かけて1局の碁を打つじゃないですか。1日で打ち切るほかの大半の碁よりも、苦痛の度合いとかが全然違うんです。
僕は喜びよりも苦痛の方が強かった。1日目の夜は盤面が頭に浮かんで眠れない。酒に頼って二日酔いで打つこともありました。局後に吐くこともありました。
でもね、逃げずにとことん戦って、とことん一生懸命打ったら、勝ち負けを超えるものがあるんです。けっこうさっぱりした、爽やかな気持ちになるんです。
名人というのは、ナンバー1の名称ですからね。勝ち負けだけじゃなくて、総合的に求められるのが名人。そんな感じがするね。
6歳で日本へ 送り出した父親の言葉
僕の記憶にはないんだけども…
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