選挙とSNS、向き合い方は プラットフォームの特性で知る注意事項

ソーシャルメディアはどこへ⑤ 社会学者・谷原つかささん(寄稿)
偽情報、誹謗(ひぼう)中傷、フィルターバブル、エコーチェンバー……。
SNSが持つこれらの危険性が、少なくともメディア業界では、共有されて久しいと思います。一方で、昨年の衆院選や、この夏の参院選において、SNSは選挙戦の重要な要素としての地位を確立しました。
筆者は東京都議選と参院選が相次いだ6、7月、SNSと選挙に関する報道に協力をさせていただきました。メディアから必ずと言ってよいほど最後に質問されたのは、「SNSと向き合う際に注意すべきこと」でした。
最新の動向を踏まえると、この質問に一言で答えるのはやや困難です。そこで本稿では、「SNS」の解像度をグッと上げ、それを正しく理解したうえで向き合う姿勢を、読者が自ら考えられるようになることを目指したいと思います。
文末にこの寄稿に関する参照資料を紹介するリンクがあります
- 【谷原さん前回寄稿】潮目が変わったSNSと選挙 Xを分析、「ネット世論」研究者の驚き
SNSと一口に言っても中身はさまざまです。日本における政治コミュニケーションの文脈では、少なくとも、YouTube、X、TikTokという三つのプラットフォームが主なものですが、それぞれ仕様が微妙に異なります。順番に見ていきましょう。
四つのR掲げるYouTubeとの付き合い方
YouTubeは2019年、「The Four Rs of Responsibility」という方針を示しています。四つのRとは、以下のことです。
・Remove―ポリシー違反動画(ポルノ、暴力など)は即削除
・Raise―権威ある報道機関などの動画はプッシュする
・Reward―信頼できるクリエーターには報酬の機会を与える
・Reduce―ポリシー違反すれすれの動画(例えば有害な陰謀論や誤情報など)は露出を減らす
これらが本当であれば、YouTubeはかなり抑制的な運用を行っていることになります。実際はどうなのか。YouTubeのアルゴリズムを検証する科学的研究が英語圏では提出されていますので、それらを参照しましょう。
米国の著名科学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences」に2024年に発表された論文では、米国調査パネルに登録している人々からYouTube視聴履歴を取得し、それを学習させたGoogleアカウントのボット(振る舞いが自動化されたアカウント)を作成しました。
このボットを二つのグループに分け、一方は、引き続きサンプルユーザーの傾向に従ってYouTubeを視聴しました。もう一方は、「サイドバー(画面横の関連コンテンツ表示)最上位を必ずクリック」「サイドバー上位30本から無作為」「ホーム上位15本から無作為」という形、いわばYouTubeのアルゴリズムに無条件で従う形で、YouTube視聴を行いました。その結果、アルゴリズムに無条件で従ったボットは、前者のうち比較的党派的なユーザー履歴に基づいて視聴したボットよりも、穏健な動画を視聴する傾向にありました。
また、2023年に米著名科学誌「Science Advances」に発表された別の研究では、米国調査パネルのサンプルユーザーの履歴を詳細に観察しています。結果を見ると、過激な動画視聴の50%前後がそのチャンネルの登録者によるもので、「同タイプのチャンネルを一つでも登録」を合わせると、85%前後まで増加しました。
さらに、過激な動画視聴時間の80%は、0.6%前後のサンプルが占有していました。レコメンド(推奨機能)に関しては、一般的なレコメンドで過激な動画が推奨されることはまれですが、既に過激な動画を視聴しているユーザーには、同類の動画が50%ほど推奨されました。
以上から示唆されるのは、YouTubeは過激な動画視聴に関しては抑制的な運用を試みている一方で、個人の選択とアルゴリズムが合わさると、フィルターバブルによる偏りの強化が起こるということです。逆に言えば、個人の心がけ次第で、これは防ぐことができるはずです。
フィルターバブルに抑制的というXだが……
次にXを見ていきましょう。
実はXではフィルターバブルに対して抑制的な運用が行われています。X社は公式に「For You(おすすめ)のタイムラインは、平均して50%がフォロー中の投稿、50%がフォロー外の投稿で構成される」と説明しています。
ただし科学研究においては、確かにフォロー外が50%程度ではあるけれど、推薦されるのは一部の人気ポストで、それも右派に偏るバイアスがあったと、南カリフォルニア大学の研究者らによって2025年に報告されています。
他方、安全性に関しては懐疑…
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