戦争中、人々は何を考えていたの? 文学から時代の本心にふれてみる

中村和恵さん=本人提供 Re:Ron特集「考えてみよう、戦争のこと」明治大学教授・詩人・随筆家 中村和恵さん 世界中で戦禍は絶えませんが、国内では戦争の記憶が薄れていきます。戦後80年のいま、文学やアートなど様々な形で戦 [...] The post 戦争中、人々は何を考えていたの? 文学から時代の本心にふれてみる appeared first on Japan Today.

戦争中、人々は何を考えていたの? 文学から時代の本心にふれてみる
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中村和恵さん=本人提供

Re:Ron特集「考えてみよう、戦争のこと」明治大学教授・詩人・随筆家 中村和恵さん

世界中で戦禍は絶えませんが、国内では戦争の記憶が薄れていきます。戦後80年のいま、文学やアートなど様々な形で戦争と向き合ってきた人たちに、子どもたちに伝えたい、一緒に考えたい「言葉」をつづってもらいました。

 戦争について考えよう、なんていわれても、昔のことか、遠い国のことで、実感ありません、という人が、いまのこの国ではほとんどだとおもうんです。戦争に関する教科書の記述やイメージには、「ひどい」「かわいそう」「よくない」といった正解があらかじめ想定されていて、よくわからない、ひとごと、なんていえない空気がある。でも日本人の戦争責任、なんていわれても、自分とは直接関係ないのに、と当惑するのが、とくに若い世代なら正直な気持ちじゃないでしょうか。

 だいたいなんで戦争なんてしたのか、当時のみなさんは一体なにを考えていたのか。当事者の本心と、その人が生きていた時代の空気感を、一番くわしく、具体的に伝えてくれる媒体って、なんでしょう。第三者が撮ったインタビュー映像や、誰にとっても間違いなく客観的であろうとする歴史書などよりも、やっぱり文学!なんですよ。エッセーや自伝なども含めた、ひろい意味の文学。うそでしょ、とおもわれますか。

 わたしは大学で英語圏を中心に言語や文化、文学について教えてきたのですが、最近、大学院の講義で、戦争と日本人という主題の下、いくつかの文学作品をとりあげる機会がありました。そこで物語の力と、背景文化や時代思潮を考えながら文章を読み解くことの意義深さを、あらためて感じたんです。

 たとえば横光利一の小説『上海』(1932年初版)。舞台は欧米列強に日本も加わった帝国主義支配の時代、さまざまな思想や欲望や謀略が渦巻く1925年の上海です。抗日運動に共産主義革命家、風俗描写など、当時の内務省に問題視されそうなモチーフがてんこ盛り。治安維持法の施行(1925年)以来厳しくなった検閲を意識した出版社は雑誌連載時、一部の文言を「×」などに置き換えて(伏字といいます)、読めないようにしました。その後出た単行本では、伏字を減らして表現を改めるなど、改稿の跡から二つの世界大戦にはさまれた時代の創作の緊張がうかがえます。

写真・図版
(左)『屍の街』の作者・大田洋子、(右)『上海』の作者・横光利一

 広島で原子爆弾に被爆した自身の体験を語る大田洋子『屍の街』(1948年初版)は、敗戦後の日本を占領した連合国軍最高司令官総司令部、いわゆるGHQによる検閲を警戒し、自発的に一部を削って初版が出版されました。出したかったかたちで出せるまで、作家はやはり作品の内外で、さまざまな苦労を重ねたといいます。

 以前アメリカ中西部の大学で…

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