他人の日記を読みたいワケは? 背景にSNS疲れやアナログ回帰も
【GLOBE特集】日記のひみつ(4)=全6回
近年、若い人の間で静かなブームになっている日記。書いたり、読んだり、出版したり。ソーシャルメディアで公開する人もいて、こうしたコミュニティーはネット上では俗に「日記界隈(かいわい)」とも呼ばれる。

ページの冒頭に日付と曜日だけが印字され、日記を1年間つけ続けると、自分だけの文庫本ができあがる新潮社の「マイブック」。1999年から毎年発行してきたが、ここ2年で部数を急激に伸ばしている。インフルエンサーのTikTok投稿で火がついたといい、昨年発売分は、18万5千部を突破した。
新潮社プロモーション部の金子亜未さん(25)は「メンタルケアを重視する若い世代が、紙に書き出すことで各自の思考や感情を整えるのが流行している。そんな中、税込み572円というほぼワンコインで気軽に始めやすいという反響がある」と話す。

もう一つ、ブームの火付け役となっているのが、日記だけを扱う専門の本屋「日記屋月日」だ。東京都世田谷区の下北沢駅から徒歩5分。店長の栗本凌太郎さん(29)によると、約700タイトルがそろう店頭で一番売れるのは、職業作家など有名人の日記ではなく、一般の人が自費出版でつくった日記本だという。
ファミレスチェーンのロイヤルホストに行った日の日記だけを集めた「ロイヤル日記」、書き手の音楽の趣味が前面に出ている「日本語ラップ日記2025」など、陳列台では定価2千円前後の個性満載のタイトル・装丁がこちらを手招きしている。
「棚においてほしい、という依頼は毎日のようにあり、スペースが限られているため断ることも多い」と栗本さん。多くは会社勤めで、こうした「無名」の著者による私的な書き物が100冊、200冊単位で売れるという。店のオープンは、コロナ禍の自粛生活が本格化した2020年4月。10年代から文学フリマなどで日記を出版する人が増えていたことも、店を始めるきっかけになった。

「『月日』という場所がなければ、自分の日記を出版するという発想はなかった」と振り返るのは、22年に日記「ティンダー・レモンケーキ・エフェクト」を出版した葉山莉子さん(33)だ。表紙のデザインや印刷代などに計10万円をかけ、店が年2回開くイベント「日記祭」に出品。100部が完売した作品は編集者の目にも留まり、全国の書店に流通する商業出版もされた。日記出版の魅力は、「その日一日、自分以外の誰かが生きて感じたことを心地のいい距離感で知ることができる点」だといい、自身も他人の自費出版日記をよく買って読むという。
手帳や日記を閲覧できる図書室
他人に見せる意図のない内面の吐露や日常の雑記。そんな「プライベートの極み」である手帳や日記帳をコレクションしている酔狂な人がいると聞きつけ、神奈川県藤沢市の「手帳類図書室」に向かった。
湘南台駅から徒歩8分。小さな閲覧スペースに案内されると、整然と並んだファイルボックスに出迎えられた。収められているのは、いまだに持ち主の手のぬくもりが感じられるノートや手帳だ。図書室では、持ち主の同意を得た上で公開しているが、プライバシーの観点からメモや写真撮影は禁止だ。
コレクションの主は、志良堂(しらどう)正史さん(46)。本業はゲームプログラマーで、ゲーム制作の着想に役立つのでは、と14年ごろから収集を始めた。初めは1冊1千円ほどで買い取っていたが、今は寄贈が中心で、その総数は現在約250人から計2200冊以上に及ぶ。
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