第11回戦火くぐり抜けた「被爆タンス」　守り抜いた母の思い、孫が受け継ぐ

つむぐ　被爆者3564人アンケート　長尾祥子さん（91）

　3世代にわたって受け継がれてきたタンスは、板の色つやに手入れの良さを感じさせる。金具に残る傷みは、たどってきた歴史を物語っているようだ。80年前、原爆が投下された広島の街の民家にあった。

　「東京から嫁ぐ母の嫁入り道具。祖父が見栄を張ったんでしょう」

　東京都世田谷区の長尾祥子さん（91）はそう話す。高級タンスで知られる府中家具（広島県）の職人に依頼し、しつらえてもらったものだという。

　広島市南観音町（現・西区）で生まれた祥子さん。原爆が投下された1945年8月6日は、県北部の山あいにある比婆郡田森村（現・庄原市）に学童疎開していた。

　自宅は爆心地から約3キロ。爆風で窓ガラスが割れたものの、倒壊は免れた。母・當代（まさよ）さんは、食料の買い出し中に被爆。白いパラソルに火がつき、ワンピースに燃え移った。慌てて近くの芋畑を転がって消し止めたが、背中に大やけどを負ったという。

　そんな母を見舞うため、終戦翌日に自宅へ戻り、祥子さんは入市被爆した。直接被爆しなくても、後から爆心地付近に入ることで、残留放射線にさらされていた。

「さようなら」　もがき苦しんだ父

　広島市内の弁護士事務所で働…