「モルックは、はやる」名誉住職はひらめいた そして市は「聖地」に

 モルックというスポーツはご存じだろうか。ボウリングのピンのように立てた木の棒を、投げた木の棒で倒すスポーツ。北欧フィンランド発祥なのに、兵庫県川西市がなぜか「聖地」と名乗っている。それには、ちゃんとした理由があった。 [...] The post 「モルックは、はやる」名誉住職はひらめいた そして市は「聖地」に appeared first on Japan Today.

「モルックは、はやる」名誉住職はひらめいた そして市は「聖地」に

 モルックというスポーツはご存じだろうか。ボウリングのピンのように立てた木の棒を、投げた木の棒で倒すスポーツ。北欧フィンランド発祥なのに、兵庫県川西市がなぜか「聖地」と名乗っている。それには、ちゃんとした理由があった。

 モルックは1996年、サウナやビールを楽しみながら気軽にできる競技として開発された。

 倒すのは「スキットル」と呼ばれる木製の棒で、12本を立てる。3.5メートル離れた場所から、下手で投げる棒が「モルック」だ。

 ルールは、倒れた本数が点数になるが、1本しか倒れなかった時だけ、棒に書かれた1~12の数字が得点になる。

 交互に投げて得点を増やし、50点ちょうどになったチームが勝利。ただし1点でもオーバーすると25点からやり直しになる。

「さらば青春の光」森田さんが発信

 2008年、フィンランドのヘルシンキ大に留学していた日本人医師が、モルックの道具30セットを購入して帰国。日本モルック協会を立ち上げた。

 19年、協会が東京で開いた練習会に参加した、お笑いコンビ「さらば青春の光」の森田哲矢さんが、ユーチューブで発信したことで知名度が高まった。協会の方針は「立候補すれば誰でも日本代表」。森田さんも、フランスの大会に出場した。

 そのメンバーが、持参する道具にチーム名を入れようと、木に刻印のできる人を探した。人づてに紹介され、引き受けたのが川西市の中博司さん(38)だった。

 中さんは元猪名川町職員。有害鳥獣担当として、猟師に駆除を依頼するうちに、誘われて自分も猟をするようになった。退職して猟師を本業に、レーザーで文字や絵を刻む刻印業も始めた。

 新しいもの好きの中さんは、ネット通販サイトでモルックの道具を買い、友人と公園で始めた。すると、子どもからお年寄りまで珍しがって集まってきた。性別や年齢を問わず楽しめ、体力だけでなく戦略や運も勝負を左右する。「小学校の休み時間の遊びみたい」。おもしろさに魅せられた。

モルックがうまくなる寺 うわさを聞いた名誉住職は

 ある日、同市内の満願寺を訪れた中さんは、裏山にある平安時代の武将、坂田金時(幼名・金太郎)の墓の前に立っている木の案内板の形が、モルックのスキットルにそっくりなのに気づいた。すぐ横には縁起が良さそうな「金時の兜石(かぶといし)」もある。石をなでて出た20年の全国大会は絶好調で3位。中さんがSNSに投稿すると、「満願寺にお参りしたら、モルックがうまくなる」という、うわさが広まった。

 この話を聞いた満願寺名誉住職の故・若田等慧(とうえ)さん(享年91)は「これはいける」とひらめいた。

 若田さんは、寺を継いだ50歳まで、サントリーの社員だった。創業者・鳥井信治郎さんが近くに住んでいたことから縁があり、前身の「寿屋」時代から働いた。

 主に担当したのがマーケティング。鳥井さんの口癖で同社の企業理念でもある「やってみなはれ」の精神がたたき込まれていた。

 「境内は神聖なもの。でも、周りは少しぐらい俗でもいい」と、裏山にピザ窯を設置しカフェを開いていた。「モルックは、きっとはやる。今なら早い者勝ち、言った者勝ち。甲子園が高校野球の聖地なら、満願寺はモルックの聖地にしよう」。空き地にモルック専用コートを作った。寺では、スキットル型の絵馬やキーホルダーを売り出した。

 中さんは、市内の「石道温泉」併設の元は屋内ゲートボール場だった倉庫に目をつけた。そこを借り受け、「モルックドーム」として運営を始めた。

 屋外と室内にモルック競技場ができたことで川西では、雨の心配なく、いつでも大会が開けるようになった。満願寺で22年、全国大会「モルワングランプリ」が開かれた。

 市も聖地を公認。昨年は、市制70周年記念行事のひとつとして、満願寺モルック大会を主催した。中さんが代表の「川西モルックの会」は、市立小学校にモルックセットを寄贈する普及活動を進めている。一部の飲食店などでは、モルック棒を見せると割引してもらえる「モル割」もある。

写真・図版
屋内ゲートボール場を改装したモルックドーム=川西市

 3年前、長崎県壱岐市の市議らが、モルックでの町おこしの先進地として川西市を視察した。それからは聖地に習って、壱岐島を「モルックの島」にする運動を進め、先月、島内に全天候型モルック競技場をオープンさせた。

 国内のモルック競技人口は今や165万人とも言われている。自称から始まった聖地は、狙い通り全国区になった。

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